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『この世は舞台、人は皆役者・・・・』
シェイクスピアの『お気に召すまま』の名セリフです。人は生きていく中で様々な役を演じています。子供、兄弟、夫や妻、父親や母親、会社では部下や上司といった具合にそれぞれの舞台で役回りを演じています。
人生において与えられた役を上手に演じる事がその人の幸福につながって行くとしたら・・・?
私は三十年を超える演技指導歴を通して、演技術とはまさに人を知ることであり生活に活かせる技術であることを知りました。
【設定力】イメージを具現化する鍵は「具体性」にある
最近よく書店に並んでいる『願えば叶う』的な書物に書かれている様な事を役者は演技の中でやっています。そこに存在しないものをあたかも存在するがごとくイメージする技術で、野球のイチロー選手も試合前には必ず自分がバッターボックスに入って良いバッティングをしヒットを飛ばす姿をイメージしていたと聞きました。
では、上手くイメージ出来る人と出来ない人の差は何処にあるのでしょうか?それは一言で言うと『具体性』です。イメージしていてもそのイメージが『抽象的』なうちはイメージは具現化してくれません。
例えば触るという行為・・「生命を触る」どう触りますか?生命では漠然として何にどう触れるか不明瞭。では「動物を触る」。色んな種類がいてまだ不明解ですね。猫を触る、大分具体的になりました。うちのタマを触る、完全に具体的で想像のなかでもどう行動するかが明解です。
イメージ力の強い人は常に『具体的』です。私の演技術の師匠が『すべてのいい芸術家は常に具体的だ』と言っていました。画家のピカソのキュビズム絵画は写実画とは異なり抽象画ですが、平面の画紙に見えている正面だけを描くのではなく被写体の裏も書きたいという画家としての欲求が立体絵画、キュビズムを誕生させたのです。鑑賞者には『抽象的』に見えても、ピカソの頭の中は何を書いているか常に『具体的』だったという訳です。
【交感力】言葉の裏の無意識を読み取る、AI超えの対話術
コミュニケーション能力が高くなければ役者は務まりません。演技では通常のコミュニケーションより深い交感が要求されます。では、深い交感とは何かと言えば相手の言葉の裏を読む能力です。『阿吽』や『察する』など日本人にはなじみの深い能力です。
私達は言葉の意味だけを聞いたりしている訳ではありません。実は意味よりも相手がそれをどう言っているかをキャッチしているのです。
同じ『オハヨウ』という挨拶の言葉も親しい友人にかける『オハヨウ』は『今日も一日仲良くやろうぜ』という意図があり、嫌いな相手にかける『オハヨウ』は『なるべく話しかけるなよ』とかの意図が隠されています。言葉の裏にある相手の無意識を読み取り、反応し、対応し、行動する事が演技にとってもとても重要な要素です。そしてこれは東洋哲学の『気を読む』にもつながる技術であり、AIには出来ないだろう『技』です。
【集中力】自分ではなく「相手」に焦点を当てて緊張を解く
人の緊張とはどうやって生まれるのでしょう?役者の中にも緊張という演技の大敵からなかなか逃れられない人達がいます。人の意識はカメラのレンズと同じように焦点というものがあります。緊張する原因は意識の焦点が自分に向いている事です。演技の最中に『セリフを上手に言わなきゃ』とか『この監督怖いから失敗したらどうしょう』とかいわゆる雑念や自意識といわれるものに囚われている役者は確実に緊張します。
では役者がどのように緊張から解放されているかといえば相手役と劇の状況にその瞬間、瞬間、100パーセント集中しているからです。人間は集中すればするほどリラックスするように出来ていて、脳波もアルファ波になることが瞑想等でも証明されています。
映画やドラマで涙を流している美しい女優さん達のアップショットは常に話題になりますが、舞台裏はというと女優さんの周りで忙しくスタッフが走り回り、監督の怒号が飛び、カメラは鼻先近くまで迫るという状況です。そんな中でも彼女達は自然に涙を流す技術を持っています。それは周りの喧騒に焦点を当てるのではなく、役として何処に焦点を合わせ集中すればよいか具体的に掴んでいるからです。自分の事ばかりに焦点を当てていると物事が上手く進まないのはどの世界でも一緒ではないでしょうか?
【身体力】年齢はただの数字。東洋武術で百年時代を若々しく
最後に・・・
年齢はただの数字 AGE IS JUST A NUMBER
人生百年時代と最近良く言われます。易学では60歳で人生一回りで還暦以降は10歳から再スタートだそうです。今、年齢68歳になる私は差し詰め18歳の思春期真っ只中という所です。
今後AIにより医療は飛躍的に進化すると言われています。ただどんなにテクノロジーが進化しても私たちは身体というアナログな乗り物に乗っています。出来るだけ故障なく長く運転するには知恵が必要です。
役者も自分の身体が商売道具なのでそのケアに気を使っている人たちが多いです。中にはアスリート並みの生活を送っている方たちもいます。私自身も今だアクションをこなし、私生活では柔術に親しめているのは偏にこの体のおかげです。
かと言って特別な何かをしているという訳ではなく、一般の方々でも実践出来る事をルーティン化しているだけです。まず食事は基本的には加工食品は口にせず、なるべく和食中心でオーガニックなモノを食しています。朝、納豆と玄米、味噌汁、御新香と食べ始めてからは腸活となり疲れにくくすこぶる快調です。睡眠はよく取るようにしています。
そして皆さんにご紹介したいのが『東洋武術的身体技法』です。私の教え子たちにも伝授して実践してもらっています。最近ではドジャースの山本由伸投手のトレーナーが教えていらっしゃるトレーニングに近いもので、筋力に頼るのではなく身体全体を効率よく使う為のエクササイズです。私自身この体操を長年やっているお陰で若い頃と余り変わらない身体の使い方が出来ています。是非お勧めです。
最後に『この世の中に真実なんてモノは存在しない、あるのは捉え方だけだ』。哲学者ニーチェの言葉です。自分を年寄りだと捉えればそうなりますし、18歳でまだまだこれからだと捉えればそういられるという事でしょう。
樋口隆則 ひぐちたかのり
俳優、脚本家、映画監督
プロレスのレフェリーであるジョー樋口の息子として大阪府で生まれ、横浜で幼少期を過ごす。1977年渡米し、ハワイ大学で語学研修後、NY市立大学医学部心理学科に入学。3年目で中退。その後、演劇の名門であるNYネイバーフッド・プレイハウスに入学し、相手との対話力や現在のコーチングの始祖と言われるサンフォード・...

