講演会講師インタビュー|NHKに入局し「クローズアップ現代」などのチーフプロデューサー、解説主幹を務め、現在は、科学技術や宇宙工学、AIなどを中心に論説や講演を行っている室山哲也(むろやまてつや)氏にインタビューをしました。
日本科学技術ジャーナリスト会議とは
現在、室山氏は日本科学技術ジャーナリスト会議の会長をされていますが、どんな団体で、どんな活動をされているのか、詳しくお話いただきました。
室山
出来て30年ぐらいになるんですけども、もともとマスメディアの科学担当の記者とかプロデューサー、科学ジャーナリストたちが集まってやっている団体で、最近は研究者だとか、研究団体の広報の人とか、いろんなウイングを広げていったんですけど、おそらく科学技術、サイエンス系の団体では日本で1番大きくて、世界科学ジャーナリスト連盟というのがあるんですけど、そことの連携をとっています。
組織ジャーナリズムは頑張っているけど限界がある。で、組織ジャーナリズムを超えていろんなメディアの人が集まって組織ジャーナリズムではできない、科学コミュニケーションやジャ-ナリズムをやろうと、いうので始まった団体です。
年に1回科学ジャーナリスト賞とかを決めたり、月例会で講演をやったり、若いジャーナリストを育てるジャーナリスト塾というのをやったり、あれもこれもやっている完全ボランティア、やればやるほど赤字になるという、とまあこんなようなことです。
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室山さんをご紹介するなら、NHKの子ども向け科学番組「科学大好き土曜塾」で塾長をされていた室山さん…の方が分かりやすいでしょうか。
室山
5、6年やったのかな。結局、子どもに科学を教えるのはとても重要なことで、子どもって虫を見つけたらそれを追っかけたり、珍しいものならじっと見ていたりしているでしょ。あれが人間の文明の原点ですよね、好奇心ですよね。そういうものを子どもはいっぱい持っているんだけれども、どうも中学、高校、大学に行くとなんか擦れてきて、みずみずしい好奇心がなくなっていくんですよね。まぁ、あの…教育が悪いと思います。そうじゃない子どもに、知らないことを知ったときの驚きとか、それを見た時に感動をしたり、「うわぁ、きれいだね」というようなことを一緒に体験できるような番組をやろう、と。そう思ってやっていたんですよね。
もともと僕はNHKの科学番組のディレクターなんで、やっぱり、物を見て、驚いて、感動して番組はスタートするので、そういう同じような気持ちを子どもにも持ってもらいたいなぁ、と。それで堅い言い方をすると、そういう素質を持った若者が増えることが日本の将来を切り開くんですよね。日本はそれしかないからね。だからそういう意味で、そういう子どもを育てましょう、ということですね。
科学って面白い!
NHK入局5年目に科学番組部に異動されたことが「科学」と関わるキッカケだったと語る室山氏ですが、その科学との「出合い」について、室山氏の人柄が映し出されるような興味深いエピソードをお話しいただきました。
室山
もともと僕は科学とか物理というのが1番嫌いだったんですよね。で、NHKに入って、最初はみんなローカル行くんですけど、僕は宮崎放送局に5年間いて、そこではいわゆるドキュメンタリーだとか、教養番組とか報道番組とかばっかりやっていて、科学なんかやったこともなかったんです。
けれど、人事異動の命令が出て「科学番組へ行け」と。聞いたら、どうもユニークなプロデューサーがいて、ヒユーマンドキュメンタリーとかで世界的なプロデューサーになった人なんですけど、その人がどうも呼んだらしい。ということで決まったんだけど、やってみたら面白かった。
僕は文化系出身ですから、1番そういうのは合わないはずなんだけど、理科系出身のバリバリ頭のいい人たちはノーベル賞を取るような先生に会ったら緊張してしゃべれないんですよ。でも僕は関係ないですからね、だから「どうして? どうして?」と子どものように聞いて。ちゃんと説明できないのは先生が悪いと思っていますから。そうしないとテレビにならないから。
で、そうやったら、一流の先生というのはやっぱりものすごく易しくしゃべるんですよね。二流、三流は難しい言葉で誤魔化しますよね。でも一流の先生は本当によく分かっているので、ここまでは大丈夫ということが分かっているので、上手にしゃべる。それでまあ、僕は子どものように聞いている中で、「あぁ、なるほど」と納得しているうちに、科学ってすごいなって思い始めて…って、感じですかね。
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それまで科学とは無縁だったという室山さんですが、作った科学番組は大きな反響がありました。何がヒットの要因だったのでしょう?
室山
(異動で)東京にきて最初に作れと言われたのが、遺伝子の番組だったんですよね。中村桂子(生命誌研究者)という非常にすぐれた生物学者、生命学者がいて、その先生のところへ行った。そうすると、ものすごい、美しい聡明な人が待っていて、僕は山から下りたばかりの熊みたいな格好で…。
(中村先生は)「何を聞いてもいいのよ」と、いう感じで。それで「遺伝子の番組やれって言われたんですけど、先生、遺伝子って何なんですか?」って聞いたんです。これは後で先輩に言ったら怒鳴られる話なんですけど、リサーチもせずに行くとは何事だと(笑)。
でもその時は「遺伝子って何ですか?」と聞いたら、「室山くんは人間なの?」って言われ、「人間です」と答えると、「室山くんが知っている生き物って、どんなのがいるのかな?」って。完全に子ども扱いなんですよね。で、「サルもいるし、犬もいるし、猫もいるし、熊も、サボテンとか桜もそうです、アメーバーもそうです」とか言ったんですね。
「今、室山くんが言った生き物は地球にいてて、地球型生命というのよ。みんないろんな身体を持ったりしているんだけど、もともと4つの物質でできているの」。塩基というんですが、A(アデニン)G(グアニン)C(シトシン)T(チミン)ですね。
「不思議なことにどの生き物をみても、その4つでしかできてないのよ。何でか、分かる?」と聞くから「分かりません」と。「もとをただせば、今は3000万種ぐらいいるけど、1つの生き物だったのよ」と言われて。ビックらこいたわけですよ。聞いたこともない、と。文化系ですからね。
「先生、それはどういうことですか?」って聞いたら、要するに最初の生き物から進化が起きていて、鳥は空を飛び、魚は海に潜り、人間は2本足で立ってどんどん変化して、進化して、今いっぱい生き物がいるんだと言うわけですよ。
僕はそれでビックリして感動して、ちょっと考えこんじゃって。「ウチの死んだじいちゃんが死ぬ前によく言っていたのは、山には山の神様が、木には木の神様が、石には石の神様がいる」と、アニミズムですよね、「そういうことですかね」と言ったら、ちょっと先生は困った顔をして「そう考えてもいいわね」と。その時に僕は「それなら分かる気がします」って言ったんです。それが僕の(科学との)始まりです。
その時に「室山くんはバカなのね」って言われていたら、もう僕は科学やってないですよね。それで僕はものすごく感動して「生きているってどういうことなんだろう」と。僕とあそこにいる犬を、ずっとたどれば先祖は一緒かということ、もっと言えば人類全員もどっかでつながっているわけでしょ、そうやって考えると生き物としてのメカニズがあって、今生かされていて、それでいつの間にか人間やっていて、死んでいくんだけれど、「生きているって何だろう」と思い始めるわけですよ。これは仏教だとか、文化系の世界にも通じますよね。
そういうことをやっている「科学って何だろう」って、思って始めたら、まあメチャクチャ面白かった、という感じですかね。最初の出会いで中村桂子先生に会ってなかったら…そこですね、それが良かったですね。
講演会で話すAIの話
講演会を始められたきっかけや、リクエストの多い講演テーマ、人工知能(AI)について聴講者に伝えたいこと、など興味深い内容を詳しくお話いただきました。
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1976年にNHKに入局され、「ウルトラアイ」「クローズアップ現代」「NHKスペシャル」などの科学番組チーフプロデューサーを務めた後、NHK解説主幹を経て2018年に定年されました。講演活動を本格的に始められたのは定年してからでしょうか。
室山
解説委員の時代からも(講演の依頼は)時々はあったし、テレビとかの司会もやっていたのでだんだん増えていった感じですけど。NHK時代はそんなにいっぱいしゃべっちゃいけませんよね。そんなのあるならテレビでしゃべれ、と。テレビで企画してこれをしゃべりたいと言ったらしゃべらせてくれていたので、そういう意味ではすごくラッキーな人生なんですけども、でもテレビでしゃべらせてくれと言っても、90分しゃべらせてくれは無理でしょ。10分だけにしろとか、ポイントのところだけとか。それとテレビで私の生い立ちみたいなことはしゃべらせてくれないですよね。
それで(NHKを)やめて、(講演会で)90分しゃべらせてくれる時はすごく大喜びで。全部僕がしゃべっていいんですかって感じで(笑)。2時間でもしゃべりますよって(笑)。
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「講師派遣ナビ」にご登録いただいている講演テーマは多岐に渡っており、「脳と心の不思議な世界」「ロボットと人間の不思議な関係」「クルマの未来と社会の行方」「気候危機と脱炭素社会の行方」「みんな違ってみんなイイ!」「DX時代到来!人工知能にどう向き合うか」「進む交通のDX!自動運転の光と影」「カーボンニュートラルへの処方箋」「ロボコンに見る教育の極意」「脳を知ってよい子を育てよう」「どう向き合う? 気候変動」「どうつくる? 持続可能な社会~新型コロナとSDGs~」と12もあります。リクエストが多いテーマはどれでしょうか。
室山
今は人工知能(AI)が多いですね。ちょっと前まではSDGsとか環境問題が多かったですね。ところどころで教育問題とか。僕の娘は自閉症なもんですから発達障がいのね、障がい者の人たちに話すときは「みんな違ってみんなイイ!」というタイトルで。いろんな人がいていいんだよと。生物学的にみても、多様性は進化の源泉なんですよね。
文化もそうですよね、日刊スポーツもそうだと思いますが、いろんな記者がいるから科学反応を起こしてブレークスルーを作るんだけど、単一な状態というのは生物学的にもよくないんですよね。そうしてみると、人間社会も文化も全部そうで、みんな違ってみんないいんだ、と。
ただ1つだけ言っておくと、いろんなことをしゃべっているけど、僕のテーマ、結局1つなんですよね。人間というのは虚弱な身体を持った生き物なんですよね。だから裸のまんま、ジャングルに生きようたって生きていけない。ライオンかなにかに食われちゃうんです。そのために僕らは二足歩行で立ち上がって手を使って、物を作り出してきたわけですよ。そのために脳があって、目でものを見て、イメージして。イメージしたものを手で作り出して、いわゆる文明ですよね、社会とか文明とかを作ってきた。
生き物には生存戦略があって、生き続けていく上での自分なりの戦略があるんですよね。鳥は身体を軽くして飛ぶ、空から物を見て虫を探す、魚は魚で…、人間は二足歩行で考えて物を作り出して生きていくのが生存戦略。
今、このメガネだって、座っているイスだって、部屋の中にあるものはみんな人工物でしょ。僕らの身体とか、水とか、空気ぐらいでしょ、自然にもともとあったのは。そういうふうにして進んできた。それで物を作り出して、機械文明が始まって、今コンピューターが出来て、生成AIが出来てきているわけだから。1番最初にそのへんの棒きれで獲物をたたいて食べた時に、棒というのが道具だった。棒ってすごいじゃんっていうところから始まっている。
今の生成AIが出来た時と何にも変わってなくて、人間が物を作り出すことで優位性をキープして生き残ると、そういうことでやってきた。その結果、気候変動が起きたり、今の生物多様性が失われていったり、公害が起きたり、汽車が走ったり、コンピューターができたりしているので。で、そういう世の中で「人間が幸せに生きるためにはどうしたらいいのよ」というのが僕のテーマです。
そのための分岐点として教育はどうしたらいいんだとか、脳や心はどうなっているんだとか、人間を知らないと話ができませんから、コンピューターはどうなっているのだとか。そんな中でこれからどうしていったらいいんだろうっていうことが僕の大きいテーマなので。結局まあ考えてもキリがないんだけども。
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講演はどういう主催者、団体からの依頼が多いですか。
室山
人工知能(AI)でいうと、会社とか、自治体、教育関係、労働組合。環境問題も入れていくと町内会や大学からくることもあるし、僕の近所でいうと三鷹とか川崎の市民大学があってシリーズみたいにやっているとか。あとは政治家や官僚ですね。ローカルの地方議員の会みたいなのがあって、そういうところに呼ばれて地域の在り方だとか、それについてしゃべってくれとか、そういう感じですね。
あと僕は講演も多いんですけど、シンポジウムで司会することも多くて、どっちかというと司会の方が得意なんですよね(笑)。司会というか、ファシリテーションですよね。ちょっと前でいうと宇宙なんかもやっていたので、NASA(米航空宇宙局)とかJAXA(宇宙航空研究開発機構)とか、ヨーロッパの宇宙機関とか、ロシアも来たかな…3日間ぐらい、人類はなぜ宇宙に行くのか、みたいな。日本の宇宙飛行士が勢揃いしてディスカッションする時の司会をしたり。司会はそんな感じですかね。数としては講演の方が多いですが…。
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講演を聞きに来られた聴講者に、1番伝えたいこととは何でしょうか。
室山
そうですね、やっぱり「市民が幸せになることをやるべきだ」ということでしょうかね。商売してお金儲けは結構なんだけど、そこに住んでいる、いろんな市民が恩恵を受けて、「生まれてきてよかったね」というような社会を作れるようなビジネスをしてほしいし、政治家にはあんな裏金問題みたいなバカなことばっかりやっていないで、本当に社会を良くすることを考えてほしい。
それから思うのは時代がものすごく変わっているので、僕はもともとマスコミの人間ですので、コミュニケーションとか科学技術のこととか考えると、今までの温故知新で大切な人間の心とかキープしながら社会構造が激変していますので、生成AI以降はものすごく変わるんですよね、だから古い政治家とか、昔取った杵柄の老人が、僕も老人ですが、若者の邪魔をするな、と。若い人が本当にノビノビと働いているようなことを支援して、新しい時代を本当に作っていくことをやってほしい、と。
人間社会がどんどん変わっていっているのでどうしたらいいかということは考えておかなきゃいけないし、生成AIについていうと毎日新しいことが起きているので。人間が幸せにならないと意味がないですからね。僕らにとって幸せって何なのってしっかり今考えておかないと、もっていかれちゃうと思うんですよね。だから脳の話をしているんですよ。脳とか人間の身体の話とかね。
僕らは生き物で、AIは生きてないですからね。だけど生き物に似たような振る舞いをするので、僕らは錯覚を起こすんだけど、これからどんどんもっとすごくなっていくんですけど、生成AIがアンドロイドに搭載されて、これから動き始めますからね。アンドロイドなんか見た目で分かりませんからね、人間とね。これが社会に入ってくる。今、犬ロボットでさえ壊れたたらお葬式する人がいるわけでしょ。アンドロイドに生成AIが搭載されたのが壊れたらどうするんですかね。ゴミ箱に捨てるんですかね。お葬式をあげるとしたら、そのアンドロイドに人格を認めるわけってなるじゃないですか。
今、自動運転なんかでも同じことが起きていますけど、そうすると法律はどうするか、民主主義はどうなるの、どんどん僕らが今まで作ったフレームが変わるわけですよ。今、僕はAIのことを話す時は、そういう話をしています。
ダイバーシティ(多様性)の重要性
多様性とはどういうことか、多様な生き方や考え方を持つことの重要性など「ダイバーシティ」についてお話しいただきました。
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講演テーマ「みんな違ってみんなイイ!」ではダイバーシティ(多様性)の重要性について、自閉症の娘さんを育てた経験も織り交ぜながら話されると聞きました。ご自身の経験も踏まえた話で重みを感じます。
室山
いろんな人といろんな話をしていると、どんな人でもいいところはありますよね。コイツ、ここはすごいな、みたいな。そこがはまると、やっぱりすごいんですよね。僕も悪いとこだらけだけど、1個ぐらいいいところあるんじゃないかなと思うんだけど、そういう人が今80億人地球上にいてね、1人ひとりの長所が寄り集まって1つのベクトルになれば、たぶんいいと思うんですよね。
生物的にも最初の1種から今は3000万種、なんでそれが起きているかというと、多様化するということは生物学的にはしぶとい構造を作るということなんですよ。例えば船なんかで、全部(1つの大きな)船室だったら、座礁したら沈没するでしょ、だけど船室がコンパートメントのように別れていたら、1個の船室が沈没するだけで浮いていられるじゃないですか、そういうふうに多様なことと言うのはしぶといんですよね。
農業なんかでもそうですよね。ここから向こうまで延々と綿花を作りますと、そこで1種類の害虫が出たら全滅ですよね、だけど多様な作物が組み合わされているところでは害虫が出てもダメージは部分的で、全体的に持ちこたえるんですよね。多様化するということは生物学的にはいいことというか、重要戦略なんですよね。
文化も一緒。トインビー(英国の歴史哲学者)という人は、新しい文明は交差したところに生まれるというんですけど、(我々も)身に覚えありますよね(笑)。僕なんかでも同じ仲間と飲んでも言うことはいつも一緒で面白くないですよね、言うことが分かっていて。でも全然見たことない職業の人と話すと面白いですよね。異質な文化っていうか。そうすると、ビビッときて、そうだったということになる。そうやってみると人間社会も多様性があることは大変重要なことで「みんな違ってみんなイイ!」という社会を作るほうが、社会としてもパワフルだと思うんですよね。
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ユーチューブの動画配信もいくつか見せていただきましたが、息子さんが飼っていたウサギが亡くなり、そこでいろいろ考える中で「どうせ死ぬのに、どうして生きなきゃいけないの」という質問をされたという話にはドキッとさせられました。難しい答えですね。
室山
いやぁ、やばいことに気がついたなぁって思いましたね(笑)。答えられないですよね。大人になったら分かるよとか、生きたいように生きれば…とかいろんなことを言えるんだけども。だって生まれる時って自分で生まれたわけじゃないでしょ、親に「頼んで生まれた訳じゃねぇ」って言って、よく叱られましたけど(笑)。親父はその後「オレもだ」って言っていましたけど(笑)。
僕の人生は僕のものじゃ、ないじゃないですか。生まれることも死ぬことも自分で決められないし、安楽死はできないですしね。そう考えると自分の命は自分のものじゃないのかなって思って、生かされてるってことになるのかなって。結局、いろんな人にその質問をしてきたんですけど、やっぱりこれだっていう答えはなかったなあ、と。でもそういうことを問い続けることが重要かなって思います。
私たち人間が守らなければならないものとは
生成AIの誕生により人類の在り方が大きく変化していく中、近未来に起こりうることをふまえ、私たち人間が守らなければならないものとは何かについてお話していただきました。
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狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く未来像として、政府が提唱するソサエティ5.0ではサイバー空間とフィジカル空間が高度に融合した社会…を目指すことになります。何だか人間が置き去りにされているような不気味さも感じますが…。
室山
1番重要なテーマですね。今、生成AIとかが出てきて全体的に何が起きているかというと、身体性の喪失ということです。人間の身体、そのものが消えていっている感じなんですよね。
簡単に言うと、我々はホモサピエンスという人類で2、30万年前に生まれたんですけど、脳そのものもほとんど構造が変わってないんですね。で、身体使っていろんなことをやってきたわけですよ。狩猟したり、農作業したり、だんだんそれが脳化社会といって脳が作り出す情報によって社会が回り出すようになってきていて、身体の重要性が消えていっている感じになるんですよね。
結論を言うと、人間の身体、生き物としての身体のメカニズム、脳と身体の関係、脳がないと人間は生きていけませんので、生き物としての身体性みたいなものをしっかり押さえたソサエティ5.0にしていかないといけないし、それを忘れないようにということかな。
今の状況というのは、生き物としての人間のメカニズムと人間の脳が作り出した文明の板挟みになっていると。股裂き状態、それをどういうふうにバランスとるかが重要で、このままいくと僕ら意識そのものがロボットに注入されて、人工知能が永遠に生きていって、肉体が滅びるようなそんな文明になりかねない、というか、たぶんなると思うんですよ。そういう時に生き物としての人間の抵抗というものがないと、逆にいうと本当のAIは作れないと思うんですよね。
ソサエティ5.0とかその通りだし、言っていることは間違ってないけれども、身体のことどうしますか、ということを考えないといけない。「人間て何なのか」。あんまり考えられないまんまソサエティ5.0とかやっていくと、ちょっとやばい、気が付いた時にあれ、これで良かったっけみたいになって、ボタン1つで人が1万人バーンと死んじゃったりね、そういうようなことになっていったりするんじゃないかという気がします。そこの部分をちゃんと整理して言わないといけないし、考えなきゃいけない。
今、JAXAの人たちと宇宙文明検討会というのを何年もやっているんですよ。これから火星とか深宇宙に人類が行くでしょ。どんな社会を作りましょうか、という議論なんですよ。哲学者とか生物学者とか宇宙飛行士とかいろんな人が出入りして考えていて、僕は僕の考えがあるんだけども、人間というのは、鹿島建設の人で月面基地を設計している人に聞くと、1G、地球上の重力がないと子孫が生まれにくいらしいです。だから1G以下のところで、人間が生きていくことは今のままでは難しい。むりくり回転してGを作って、火星とか深宇宙に行く。もう1個は地球を作る、地球環境を作るということですよ。
僕らが1番いいのは地球ですよね。むりくり地球を作って宇宙に社会を作るんですから、むりくり生きている状態でしょ。で、だけどそれでどんどんいろんなエネルギーを開発して深宇宙へ行くとした時に、たぶん限界があるだろうと。
そしたらこれから先、人間の意識をダウンロードして人工知能に移植させて、ロボットに搭載させれば、もう死なないですよね。で、ものも食わなくっていいわけだから、エネルギーはいるだろうけど。だから戦争もなくなるでしょうって感じで、意識としての人類に進化して宇宙にいきましょうってことになりますよね。それを人類と呼んでいいのかという議論があって、そういう議論を今なんかしてて。僕はもうそんなのは嫌だ、地球と一緒に死ぬんだっていつも言うんだけど、理屈でいうとそういうことすら議論として出始めている状況で、僕らはいったい何を守りたいのかっていうことですよね。
もう一つ、2100年ぐらいになると人口がピークアウトするので、人類は減少に向かう。ただしそれまでの間、日本のような少子高齢化みたいないびつな国がどんどん出てきて、アフリカなんかの人口は急増する、2100年過ぎてもアフリカの人口は少し増えるけど、先進国はどんどん減っていく。あとは人口減少時代ですよ。
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最後に講演を企画されている主催者さまに対して、メッセージをいただければと思います。
室山
もともとNHKのディレクターとかプロデューサーをやって番組作りをやってきましたので、僕の話の特徴はビジュアルを扱えるということと、テレビ屋ですので、あんまり難しいことはしゃべれませんが、取材した結果を素人の目線で、整理してこういうことですよとお伝えすると、一緒にいろんな課題を考えていけるように、そういうような会になればいいのかなと思います。
質問があればどんどんしていただいて、一緒に手探りで進んでいけるような、そういうふうな会が出来ればいいかと思います。よろしくお願いします。
日本科学技術ジャーナリスト会議会長 室山哲也氏インタビュー
室山哲也 むろやまてつや
日本科学技術ジャーナリスト会議会長
1953年、岡山県倉敷市生まれ。76年にNHK入局。「ウルトラアイ」などの科学番組ディレクター、「クローズアップ現代」「NHKスペシャル」のチーフプロデューサー、解説主幹を経て、2018年定年。科学技術、生命・脳科学、環境、宇宙工学などを中心に論説を行い、子供向け科学番組「科学大好き土よう塾」(教育テレビ)の塾長...