働き方改革を成功に導く効果的な方法
社員の残業を削減しても働き方改革の効果を得られずにいる企業へ向け、何を意識しどんなツールを使えば改革がうまくいくのか、取り組むべき大切なことについて、特定社会保険労務士・天野勉氏に解説していただきます。
「働き方改革=残業削減」にあらず
セミナーなどで企業や行政の人事担当者と話しをする中で、働き方改革やワークライフバランスを「残業削減」と同義で捉えられているケースが少なからずあります。確かに、長時間労働を是正し、多様な働き方を実現するために働き方改革を進めようとする企業が多いことから、働き方改革と残業削減は無関係なものとは言えません。しかし、働き方改革を進めた結果として残業時間が減るのであって、残業時間を減らすことだけを目的とするものではありません。
働き方改革は、仕事の進め方の改革であり、生産性の向上、仕事の質の向上を主な目的とする必要があります。
安易な「ノー残業DAY」や「残業時間の削減目標」は失敗のモト
働き方改革やワークライフバランスの推進のため、多くの職場で行われている取り組みにノー残業DAYがあげられます。残業時間の削減目標を掲げ、その実現のためにノー残業DAYを設定し、職場の強制消灯やパソコンの電源OFFといった懸命な取り組みの事例をよく耳にします。このことにより一時的に残業時間が減り、一定の効果が見られるケースもあるようです。ただ、中長期的に効果が継続し、職場に定着しているかというと、そうでもないケースも多いのが現状。形骸化していたり、元に戻ってしまったりしています。何が問題なのでしょうか。
働き方改革を進める上で、「生産性」を意識することが不可欠です。生産性の定義はいろいろありますが、ここでは「生産性=成果/時間」とします。式を少し変形すると、「成果=生産性×時間」となるため、ノー残業DAYなどで時間を減らす一方、生産性に変化がなければ成果が下がります。時間を1割削減すれば、成果も1割落ちることになり、売上や利益の損失が生まれていることになります。時間を1割減らしても成果を維持しようと思えば、生産性を11%上げる必要があります。
つまり、安易にノー残業DAYなどで仕事の時間を減らしつつも生産性に対する取り組みを何もしなければ、成果が下がり続け、企業は存続できないことになります。このことから職場がまず考えるべきことは、どうやって生産性を高められるかであり、時間を減らすことではないのです。
ファーストステップは業務内容の徹底的な把握
働き方改革のコンサルティングにおいて企業や行政の管理職から業務のことをヒアリングしますが、驚くほどに部下の業務内容を把握できていない現状を目の当たりにします。部下の一人ひとりが、どの業務にどのくらい時間を掛けていて、何に困っていて、何がうまくいっているのか。マネジメントの基本となるこれらのことが分かっていないと生産性の向上に効果的な取り組みは見えてきません。
筆者がコンサルティングに入る現場では、「タスクシート」というツールを使って管理職と部下の間で、日々の業務内容の予定・結果(15分単位)、困っていることなどの共有を行っていただきます。シートの入力に多少の時間は掛りますが、現状の把握なくして生産性の向上はありえません。2週間ほど続ければ、徐々に組織の課題や無駄があぶり出され、生産性向上の道筋がどんどん見えてきます。すぐに取りかかれるものもあれば、デジタル化など時間やコストが掛るものもありますが、どんどん働き方、仕事の質が変わっていくことを感じられるようになります。そして、結果として残業時間が減っていきます。使うツールは何でもいいと思いますが、しっかりと部下一人ひとりの現状を把握し、組織の課題に目を向けることから取り組んでください。
また、管理職がプレーヤーとしての業務が多いと、上記のようなマネジメント業務に力を入れられません。一時的にでも管理職の業務配分を見直すなどの工夫が必要なケースもあります。これは経営者にしかできません。経営者が覚悟を持って発信し、会社が一丸となって働き方改革に取り組んでください。
天野勉 あまのつとむ
特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント
東京工業大学大学院修士課程修了。 化学メーカー、環境系コンサル会社で長時間労働を経験したのち、製造系人材派遣会社へ。 社会保険の未加入問題や長時間労働削減など働き方や生き方に直結する問題に取り組む中で、労働者の働き方や企業の働かせ方に疑問を感じ、本格的に労働法の勉強を始める。企業の管理職、双子の子...