9月末に新型コロナウィルスによる緊急事態宣言とまん延防止等重点措置が解除されました。今年の秋はようやく観光を楽しめそうです。とはいえ行先には、密にならない屋外を選びたいもの。秋晴れの中で楽しむ散策などは、ストレス解消やコロナ太り対策にもなりそうです。
そこで今回は、散策にピッタリの京都「哲学の道」(=写真)に秘められたネーミング秘話をお届けします。コロナ禍で先が見えない中、起死回生のヒントになるかもしれません。
「哲学の道」ネーミング秘話
「哲学の道」といえばロマンチックな散策の道というイメージが定着していますが、皆さんはその正体をご存知ですか? 答えは琵琶湖疎水の管理用道路、つまり何の変哲もない人工の道です。
もちろん琵琶湖疎水は、幕末に焼け野原になった京都を復興に導いた水路で、今の京都を語るに欠かせない大切な遺産です。しかしその管理用道路が観光名所になったプロセスは、ほとんど知られることはありませんでした。
なぜなら、誰かがお金をかけて観光名所にしたものではなく、地元の人たちが何気なくつけた名称が独り歩きをして、いつのまにか観光名所になったという、なんとも説明しにくい経緯があるからです。しかもこの道の近くに京都大学があるため、日々、著名な哲学者・西田幾太郎や田辺元らが歩いていたから、いつのまにか「哲学の道」と呼ばれるようになったというのです。
ネーミングが人を動かす
しかし、インパクトの強いネーミングはイメージを根本から変えてしまいます。「哲学の道」と呼ばれるようになった途端、この道は「哲学者が思案を巡らせながら歩く道」というロマンチックなストーリーを伴って、全国に広まっていきました。
“肩書が人をつくる”といいますが観光名所も同じこと。「哲学の道」という名称が人を動かし、琵琶湖疏水の管理用道路を観光名所に仕立てていきました。「哲学の道」にふさわしい桜並木が植えられ、砂利道が敷かれ、オシャレなカフェが立ち並ぶようになったのです。こうして殺風景だった人工の道は有名な観光名所に変化していきました。
このようにネーミングのパワーは侮れませんが、ネット社会になった今、さらに影響力を発揮するようになりました。たとえば、私がPR を仕掛けた香川県の「うどん県」は、当時のインフルエンサーたちにネット上へ展開してもらった途端、たちまちトレンドワードになり、一晩でブームを作り上げてしまいました。この仕掛けの極意は、リクエストに応じて講演でお話しますが、大切なのは「うどん県」はプロが作ったワードではなく、うどんを愛する香川県民がいつのまにか名付けた”地元ワード”だったこと。だからこそ飾らない素直さ、率直さが多くの人々を動かしたのです。
他にも「アベノマスク」や「ニューノーマル」など、詠み人知らずでいつのまにか流行した言葉は少なくありません。
考え込まず、今の気持ちを言葉にしてみよう
つまりヒットするネーミングは、お金をかけてプロに依頼したものより、一般の人々が日々の想いを素直に表した言葉の方が多い、ということです。
あなたも、アフターコロナに向けて起死回生を狙うなら、まずは素直な気持ちを表現することからチャレンジしてみましょう。その言葉が思いかけず多くの人を動かして、大ヒットを生むかもしれません。試す価値、大いにアリです。
殿村美樹 とのむらみき
株式会社TMオフィス代表取締役PRプロデューサー、一般社団法人地方PR機構 代表理事
1961年2月26日京都府宇治市に生まれる。89年にPR専門のTMオフィスを創業し、3年後には株式会社TMオフィスを設立。代表取締役に就任する。地方と文化のPR戦略に特化した事業展開で約3000件の実績を積み、独自のPRノウハウを確立。これまでに 「今年の漢字」(漢字ブーム) 「佐世保バーガー」 「ひこにゃん」(...