世界でも珍しい日本の食習慣
日本の食、といえば、作法やしきたりといった独特の和の心が受け継がれており、ユネスコ無形文化遺産に登録された「和食」を中心に、食に対する意識が高いことが周知されています。また、アメリカやフランス、ドイツなど世界各国で取り組まれている食育に関しても、平成七年に制定された「食育基本法」は世界中から注目を集めました。
日本では、両手を合わせて食前、食後に感謝の言葉を唱えることが食事の作法として教えられていますが、みなさんが普段何気なく使用している「いただきます」「ごちそうさま」、この言葉の意味をご存知でしょうか。
食事を提供されたとき「どうぞ召し上がれ」と声をかけてくれる国や、「よし、たくさん食べよう」といった意気込みを言葉にしてから食べ始める国もありますが、意味や発想はまったく異なるため、いただきますは日本以外には存在しない作法なのです。
「いただきます」「ごちそうさま」の意味
「いただく」というのは、米や魚、肉、野菜や果物といった、すべての食材に宿る命をいただくことで、自分が生かされていることに感謝する言葉です。もうひとつは、目の前に出された料理の背景に、食材を育てる、収穫する、運ぶ、販売する、購入する、食事を作る、配膳する、など携わってくれた方々へ感謝の心を示す意味が込められています。食卓へ並び、私たちの口に運ばれることは、決して当たり前ではなく、目には見えないたくさんの連携があってこそ成り立っているのです。
ごちそうさまを漢字で書くと「御馳走様」となり、「馳」と「走」、どちらの漢字にも「はしる」という意味があります。昔は、食材は貴重なものだったため、揃えることはとても困難でした。大切なお客さまをもてなす食事を作るためには、遠くまで走り回って食材を調達していたのです。走ってまで食事を用意してくれることに対して、丁寧な気持ちを表す「御」、敬う気持ちを表す「様」をつけて、食事をいただく側は「御馳走様」と言うようになりました。
現在では、スーパーやコンビニエンスストアなどで簡単に食材も手に入れることができますが、誰かにおもてなしの料理を提供する場合は、買い出しで走る、店に食材を並べるために走る、料理のために走る、こうしてたった一度の食事のために奔走してくれる人々がいます。私たちが外食を楽しむその裏側では、今なお現在でも走り回っている人々がいることを忘れてはいけません。また、ごちそうさまという言葉は、食後の満足感を伝えるお礼以外に、お土産やプレゼントが食べものだった場合でも使用することができます。食べ物をいただいたお礼として使用する場合は、その場で食べるわけではないため、「ごちそうさまです」と伝えます。
まとめ
こうした、日本独特の食に対する礼儀作法は、食への感謝を忘れないよう、各家庭や教育の場で、小さい頃から教えられます。言葉を覚えたばかりの子どもでも、手を合わせていただきますという姿は、人として最初に学び実践する食育の一環ではないでしょうか。
たまには童心を思い出し、姿勢を正して、心を込めた「いただきます」「ごちそうさま」をしてみませんか。様々なことが変わりゆく世の中ですが、日本の食に対する美しい姿は、きっとこれからも後世に受け継がれていくことでしょう。
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【「食育」が大切である理由】
中村詩織 なかむらしおり
食育スペシャリスト、食育プロデューサー、一般社団法人日本食育HEDカレッジ代表理事
「食育」とは食を通して人間として生きる力を育むこと。人と人との繋がりを大切に心の中から美しく健康になれるようにお手伝いしていきます。 1982年生まれ。鹿児島県出身。上京後、トータルボディセラピストとして勤務。(オールハンドで行う、ツボや筋肉を揉み解す全身ボディケア・リフレクソロジー・ハンドリフレクソ...