【講師コラム|室山哲也】「フィジカルAI」は社会に何をもたらすか?1兆ドル市場が拓く日本の未来
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生成AIの次はフィジカルAI。2035年に1兆ドル市場が到来
最近の若者はチャットGPTのことを「チャッピー」と呼ぶのだそうです。さすがに私は恥ずかしくてそう呼びませんが、生成AIが、生活の中に深く入り込み始めていることを示しています。
その生成AIが今、「フィジカルAI」に、大きく進化しようとしています。
フィジカルAIは、今までバーチャルの世界で活動していた生成AIが、「身体」を持ち、リアル社会で活動するようになったもの。たとえば、生成AIの知能を持つロボットが、自ら判断しながら、私たちの仲間として、社会や会社の中で働いているイメージです。
イーロン・マスクは「本当の革命は、身体を持ったAIから始まる」と述べました。その言葉が示すように、フィジカルAIのインパクトは、生成AIを大きく超える側面があります。
あるデータによると、生成AIの世界市場は、2030年に2110億ドル。フィジカルAIは、2025年に44億ドルから、2035年には1兆1450億ドルに急拡大する。そして、フィジカルAIの最終規模は、生成AIの5倍以上になるといわれています。この動きを受けて、日本政府も「人工知能基本計画2025」で、世界で最もAI開発・活用がしやすい国を目指すとともに、その柱としてフィジカルAIを掲げています。AI研究ではアメリカや中国の2~3周遅れだった日本が、「モノづくり」の伝統を活用したフィジカルAIでは、その遅れを大きく取り戻すチャンスだと位置づけられています。
産業を激変させる3大分野。製造・医療・自動運転の未来図
フィジカルAIは私たちの生活をどのように変えるのでしょうか?
まず、3つの分野で大きな変革が起きるといわれています。
一つ目は「製造・物流の無人化」です。現在の工場の組み立てラインは、決められた作業を決められた場所でこなすものでしたが、ロボットが自ら判断して、人間しかできなかったことを代替するようになります。二つ目は「医療・介護への応用」です。例えば手術ロボットのダビンチは、離れたところから人間が操作しますが、フィジカルAIになれば、医師の言葉に従って患者の状態に対応しながら、リアルタイムに手術するようになります。また、手術の患部に異変が出ることを予測して、医師に対してアドバイスするようになるかもしれません。三つ目は「完全自動運転の実現」です。すでにアメリカや中国では、一部実現しつつありますが、都市部や、高齢化が進む地域で、無人の自動運転車が走り、社会に大きく貢献するようになります。またこの技術は、農業や建設現場で、無人で作業するトラクターとして活躍し、安全で高効率な仕事をするようになります。
環境保護から接客まで。私たちの生活を支える新たな相棒
このようにフィジカルAIは、社会を根底から支えるインフラとして、重要な役割を果たすことになりますが、そのほかにも、様々な課題を解決したり、私たちに夢を与えてくれるものになるかもしれません。
たとえば、「海洋のプラスチックごみ掃除ロボット」や「災害現場自律型レスキューロボット」などで、地球環境や私たちの命を守ってくれたり、町の落書きを消して回る清掃ロボットや、バーでカクテルを作りながら、接客してくれるバーテンダーロボットが現れるかもしれません。
フィジカルAIは、社会をダイナミックに変える力を持っています。
電力・責任・雇用。直面する3つの課題と人間の構想力
しかし、一方で、特有の課題もあります。一つ目は「エネルギー」です。フィジカルAIは機械的なエネルギーも消費するため、生成AIが必要とするエネルギーに加えてさらなる電力を必要とします。二つ目は「安全性と責任の所在」です。例えば自動運転による交通事故の時、だれが責任を負うのか?また、テロなどへの対応など、よりシビアな対策が必要になります。三つ目は「雇用への影響」です。生成AIはホワイトカラーの雇用に影響を与えますが、フィジカルAIは社会での実労働の雇用に影響を与えます。未来社会の人間の仕事の位置づけや、労働環境の再構成など、考えるべき大きな課題が残されます。
このように、フィジカルAIは、今後の社会を豊かなものにしていく可能性を秘めているとともに、その課題に対しては、社会全体で議論していく必要があります。「人間中心」の大原則を据えながら、新しいテクノロジーを、どのように人間の幸せのために使っていくのか?その構想力が求められています。
室山哲也 むろやまてつや
日本科学技術ジャーナリスト会議会長
1953年、岡山県倉敷市生まれ。76年にNHK入局。「ウルトラアイ」などの科学番組ディレクター、「クローズアップ現代」「NHKスペシャル」のチーフプロデューサー、解説主幹を経て、2018年定年。科学技術、生命・脳科学、環境、宇宙工学などを中心に論説を行い、子供向け科学番組「科学大好き土よう塾」(教育テレビ)の塾長...



