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高嶋哲夫 講演講師インタビュー

Vol.9

新型コロナウイルス感染拡大の先に
社会の変革、今しかできない

作家

高嶋哲夫

2020年、新型コロナウイルスの感染が世界、日本で拡大するなかに、注目を集めている小説があります。「首都感染」―。10年前に執筆されたにも関わらず、感染拡大で混乱する東京や日本の様子が酷似していると話題になり、『予言書』と言われるほどに。その影響で、今年だけで14万部も増刷されました。
この作品を執筆したのが作家の高嶋哲夫さんです。元原子力研究者としてこれまでにも地震、原子力発電所などについての多数の著書を執筆。また防災、減災、教育など幅広いテーマで講演を行ってきました。「きちんと調べて勉強すれば、(コロナは)予期できたはず」と断言する高嶋さん。コロナウイルス禍の今、私たちができること、そしてアフターコロナでどのように生きていけばよいかなどを聞きました。

2010年に出版された「首都感染」は新型コロナウイルスの感染拡大やその後の政府の対応、日本社会の状況とかなり類似しており、予言書と言われるほど注目を集めています。どのような気持ちで今の感染状況を見ておられますか?

高嶋ウイルスの専門家ではありませんが、これまでの感染症の歴史や過去の経験をきちんと調べて勉強すれば、この程度は書くことができます。むしろ「首都感染」を書いたときにはすでに、確信がありました。パンデミックは起こるべくして起こる。歴史的事実もそれを裏付けています。感染拡大している今、これまでの歴史的事実や科学的考察を組み合わせることでおのずと、どういうことが起こり、どのような対策をしなければいけないのか、決まってきます。

「首都感染」の着想を得たのは、実は20年前。石炭などの炭素系の物質を石油に変えるバクテリアが、人間も石油に変えてしまうという「殺人バクテリア」を題材に作品を書きました。その時に「パンデミック」という言葉を知って、これをテーマに小説を書きたいと思っていました。その後、SARS、MERSがアジアで流行。また致死率50%というエボラ出血熱も発生し、イメージを膨らませました。

歴史を振り返ればペスト、コレラや天然痘、スペイン風邪などパンデミックは発生しています。なによりも、現代ではこの時の何十倍も人口が増えており、世界規模で交通が発達しています。また中国やアフリカの奥地など世界各地で開発が進み、まだ見ぬウイルスが生息する未開発の土地で文明化が進んでいます。もちろん、科学や医療の進歩もありますから、それに打ち勝つワクチンも出てくると思いますし、政府の対応力もついてくるはずです。しかし今後、より強い毒性のあるウイルスやバクテリアも出てきて、パンデミックとなることもあるでしょう。今回の経験はしっかり記録して、今後のために生かすことが重要だと思います。

経験を生かすとは、特にどういうことでしょう。

高嶋感染症対策というのは、政治的な判断が強く求められます。だから中国では、政府がやった強力な封じ込めでかなり早く終息に向かいました。韓国や台湾は、過去のSARS、MERSの経験から、隔離を中心にすばやく、的確な対応を取ることができました。
小説「首都感染」の中で主人公は過去にWHOに勤め、感染症対策に経験があり、父親は総理大臣という設定でした。なぜなら、感染症対策の経験だけでなく、その経験を生かすための政治力が必要だったからです。

感染症というのは、自然災害に近いものだと思っています。しかし災害以上に、大きな脅威に感じるのは、相手が「目に見えない」という点です。
自然災害は発生すれば、その時点で被害者と被害を免れた人とは明確に区別がつきます。被害を受けなかった人は、被害を受けた人を助けたいと思います。
しかし、コロナウイルスの場合はそうではありません。今罹っていなくても、いつか自分も罹る可能性がある。今、身近に苦しんでいる人がいても、気軽に助けに行けない。自分自身が常に、感染の危険にさらされているわけです。そのため、災害の時と違って一体感が得られません。「目に見えない」からこそ、恐怖から色んな差別が生まれてしまう。ただ、感染症は自然災害の被害と違って、社会インフラや建物は元のままです。人々の意識さえ戻れば、元の生活に戻ることに時間はかかりません。

感染者はまだまだ増えそうです。どういったことに気を付ければ良いでしょうか。

高嶋毎日感染者数が発表され、その数に一喜一憂しています。PCR検査が増えれば、感染者数も増えます。また検査の場所によっても増減は出るでしょう。しかし、感染者の8割は軽症者で、中には無症状者も多いと聞いています。
重要なのは、重傷者を出さないことと、医療崩壊を起こさないことです。感染者数を減らすということに関しては、すでに取り組んでいるような3密(密閉、密集、密接)を避ける、感染者を「隔離」するというシンプルな方法を徹底的に行うことで抑えることができます。

そこで私たちに求められるのは感染者の数に踊らされず、「恐れず、されど侮らず」ということです。
そのためには、感染者の情報がもっと欲しいですね。詳細な病状や、男女、年齢等の情報、感染した場所の詳細などです。また亡くなった方の病状や情報。そうすれば、私たちも冷静に判断することができます。

コロナの終息はいつ頃とみていますか。

高嶋今年いっぱいである程度、目途が付くのではないかと思っています。数字的に見れば、従来のインフルエンザより、感染者も死者数もはるかに少ない。こういうことを言うと叱られそうですが、個人的には騒ぎすぎだと思っています。特に地方にいれば、そう思います。
自粛続きで経済的にも、精神的にも疲れ切っています。そろそろ、前の日常に戻る時です。ただ、高齢者や基礎疾患のある人は注意すべきです。重症化する可能性が高い結果が出ています。
日本を含めた東アジアの国と、欧米などとでは、感染者数、死者数があまりに違いすぎます。交差免疫による影響、BCG接種の有無など、色々と挙げられています。そのあたりの研究をもっとしてほしいです。これは、非常に重要なことだと思います。

小説家転身の理由をお伺いします。もともとは原子力研究者としてアメリカ等で研究をされていた高嶋さんがなぜ小説家になられたのでしょうか?

高嶋落ちこぼれなんです(笑)。大学、大学院、日本原子力研究所と、核融合を専門に研究してきました。さらに研究を続けるため、アメリカにも留学しました。
必死に勉強をしました。しかし、そこで感じたのは研究者としての限界でした。帰国後は、生活のために、神戸で学習塾を始めました。非常に運がよかったのは、周りに作家志望の者がいたことです。彼らの書いたものを読んでいて、自分にはこっちが向いているのでは、と思い始めました。

学習塾を続けながら、小説を書いていましたが、1999年にサントリーミステリー大賞を受賞することが出来ました。そこから本格的に小説家として活動するようになりました。
教育は非常に重要だと感じたので、現在も「全国学習塾協同組合」の副理事長として、教育に関わっています。これはボランティアです。
教育に携わる中で感じたのは、人には向き・不向きがあることです。どんな世界にも、努力では超えることのできない壁があります。私は研究者になりたかったですが、書くほうに向いていると分かりました。それぞれの才能、各自に向いているものを伸ばせるような社会が一番いい社会だと思います。
勉強、スポーツ、音楽・絵画などの芸術も才能ですが、優しさ、器用さ、粘り強さも才能です。そうした個々の才能を見つけることが教育であり、それで充実した生活が出来る社外が、理想だと思っています。

新型コロナウイルス拡大を通して、今何を思いますか。

高嶋日本の抱えている問題は多くあります。東京一極集中、少子高齢化、地方の過疎化などです。
今回のコロナウイルスで、東京一極集中の問題点がクローズアップされました。「日本は狭いようで、広い」と感じています。
全国学校一斉休校の要請が出た時も、感染者がゼロの県もいくつかありました。その後の自粛要請時にも、東京、大阪など人口密集地区以外は、感染者が少ない県も多くありました。しかし、東京の状況が、一律に日本の状況になってしまいました。まさに、東京一極集中の弊害です。
さらに、コロナより今後怖いのは「東京直下型」や「南海トラフ」などの巨大地震です。とくに、南海トラフ地震が起こると、地震と津波により、太平洋岸の都市や工業地帯は大きな被害を受けます。感染症と違って道路や建物などのインフラが壊滅的に破壊されます。その経済的ダメージは図り切れません。
2014年に出版した「首都崩壊」ではその被害を最小にするための方法を書いています。東京一極集中を避けて、地方に人と物を分散させる。その一つの方法として、道州制を挙げています。
現在の日本は江戸、明治の名残の形です。しかし、科学技術の進歩により、交通、通信、物流など飛躍的に発達している。時代に合った、「新しい日本の形」が求められていると思います。
今の都道府県よりも広域な行政区分をつくり、経済圏を大きくし、アメリカのように強い自治権をそれぞれで認めることです。工業や商業を分散させて、どこかがダメになっても、他の地域で支援できる体制にしておけば、国の機能を保つことができます。

現在取り組んでいるプロジェクトのことについて教えてください。

高嶋はい。新型コロナウイルスが短期間に、世界中にまん延し、改めて世界は繋がっていると感じました。だからこそ日本はもっと、世界に目を向ける必要があるのではないでしょうか。
例えば、難民問題。年々深刻化し、世界の難民の数は7000万人を超えています。そこで2020年4月、アメリカと南米の小国を舞台にした小説「紅い砂」を出版しました。トランプ大統領が作った「壁」で起きた悲劇の物語です。10月にはアメリカで「THE WALL」というタイトルで、英語版が出ます。この小説を世界に広めること、そして映像化を目指しています。キャッチフレーズは、「子供たちに、飢えることなく、平和に暮らせる祖国を」「共に、世界を変えよう」です。
人々の意識、それはなかなか変わるものはではありません。だからこそ、今がチャンスです。コロナで社会は多少なりとも変わりました。この今の意識変化が続けば、と思っています。

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